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2010年1月26日 (火)

週刊朝日1・29号 保坂展人 国交省はヒ素汚染調査を隠ぺい~八ツ場ダムの上流に大量のヒ素汚染あり

以下は、週刊朝日1・29号 保坂展人さんの

八ツ場ダム上流ヒ素汚染の実態についての記事の引用です。

「どうしてもお知らせしたいことがあるのです。八ツ場ダムの上流にある

品木ダムで大変な事が起こっています」

長らくの間、封印されてきた「真実」が明らかになるきっかけは昨年11月、

読者から寄せられた一通の手紙だった。

「実は品木ダムの湖底に大量のヒ素が

蓄積しているのです。

その事実を知りながら、

国交省はひた隠しにしています」

私は昨年の週刊朝日十月16日号で、八ツ場ダムと、

八ツ場ダムのために作られた品木ダムの問題点をリポートした。

その記事を読んだという「告発者」は、五年前に国交省に委託され、

品木ダムの湖底に堆積した汚泥からヒ素を除去する実験に携わった

技術者だった。

試掘した土壌の分析結果は、ダムサイト近くの土泥1キログラムに

4~8グラムのヒ素が含まれていたという。

国交省によると、

ダム湖にたまる汚泥は年間四万トンであるから

4グラムで、単純計算すれば160トンもの

大量のヒ素が毎年湖底に沈殿し続けるのだ。        

和歌山カレー毒物事件で4人の命を奪い、その猛毒性が

知られたヒ素は、極めて微量で致死量に相当するとされる。

この告発を契機として、私は総力を挙げて取材に取り組んだ。

すると品木ダムのヒ素問題の重大性を国交省が十分認識していたことを

裏付ける証拠を入手することに成功した。

その証拠を携えて国交相河川局の担当者と会ったのは、

暮れも押し迫った昨年12月だった。そのやり取りを振り返ると、

ダム官僚のしたたかさに脱帽せざるを得ない。

告発者の指摘を念頭に

「品木ダムのダム湖に堆積しているヒ素を検査したデータはないのか?」

そう切り出した私に担当者は

「あるかないかも含めて自分はわかりません」と 見事にシラを切る。

しかし、目の前には、私が携えてきた、

国交省の八ツ場ダム工事事務所が事務局となっている

「八ツ場ダム環境検討委員会」と、「吾妻川水質改善対策検討委員会」の

過去五年分の会議資料を閉じたファイルがある。

ズバリ、これらは八ツ場ダム予定地の上流で

環境基準を超えるヒ素が検出されたことでダム官僚と有識者が

頭をひねりながら環境対策を論じた証拠そのものなのだ。

そこには、品木ダム周辺の水質調査データも詳細に記載されているが、

浚渫している湖底の地質の記載はない

「湖面や、周辺の河川の水質を調べるなら、ダムの湖底を埋めている

土砂の地質をなぜ調べないのか?」

私の問いに官僚たちの重い沈黙が続く。私は更に

「なぜ国交省は、水中へのヒ素溶出データを調べているの?」

「さあ、なぜでしょう、わかりません」

知らぬ存ぜぬを平然と繰り返すダム官僚に呆れて

「国交省でこのデータの担当者はいないのですか?」と聞くと

すかさず「私です」

と胸を張った。何という図太さか。

こんなやり取りや再三の要請を重ねた末に、国交省がそれまで一貫して

存在しないとしてきた品木ダム湖底の地質を調査分析した報告書を

私は手に入れた。

年が明けた1月13日、河川局の担当者がまるで腫れ物に触るように

出してきた。

「なぜこれまでこのデータを出さなかったのか?」と問うと

「湖底の堆積土をリサイクルするために調査したもので、

 八ツ場ダムや吾妻川の環境対策のための調査ではありませんから」

あきれて言葉を失う。

彼らが出してきた報告書を見て、さらに驚いた。昨年三月にまとめられた

「平成20ダム湖堆積物調査分析業務 地質調査・分析結果報告書」には

予想通り深刻な数値が並んでいた。

品木ダム湖の4か所で震度七mまでの堆積土が採取され、含有物が各地点で

深さごとに測定されていた。

湯川(地名。元記事では地図があったのですがそこまではコピペが無理です)に最も近い地点では体積度の上層から

4500,3100,3000(いずれもmg/kg)というヒ素の数値が

記されていた。最高値は5300で、環境基本法に基づく

ヒ素の土壌環境基準は、1キロ当たり15ミリグラム未満。

何と最高値は、

その350倍を超える異常値だ。

国交省がひた隠しにしたかったわけである。

読者からの手紙は真実を語っていたのだ  

山間にあふれるヒ素入り廃棄物  

では何故、こうした深刻な土壌汚染が起きたのか。まず品木ダムが

建設された経緯を 振り返ってみよう。

八ツ場ダムの建設が予定されている吾妻川は、生物がすめないほどの

強酸性の水質で、地元の人たちから「死の川」と呼ばれていた。

ところが、八ツ場ダム建設に執念を燃やすダム官僚は、川にアルカリ性の

石灰を投入して吾妻川を中和させる自然改造に挑んだ。

強酸性の河川を放置したままだと、ダムサイトのコンクリートまで

溶かしてしまうために、八ツ場ダムが土台から無理になるからだ

一つ目の中和工場が草津温泉に建設され、吾妻川上流の湯川に石灰の投入が

始まったのは、東京五輪の1964年のこと。

以来46年間、1日50トンもの石灰が休むことなく投入され、

年間10億円もの予算が費やされてきた。

そして、品木ダムが完成したのは、石灰投入が始まった49年65年12月。

治水・利水の目的ではなく、中和事業の副産物として生まれる石灰生成物を

せき止めるためだけに作られた。

しかし、その品木ダムの湖底に予想外の早さで中和生成物と土砂が堆積した

国交相関東地方整備局の品木ダム水質管理所が発行している

事業年報の06年度版には、こんな嘆きが記されている

「品木ダムの現状は、山岳部からの土砂流入に

起因して堆積が進行し、品木ダム建設時に

有していた中和沈殿池及び中和緩衝池としての

総貯水量の80パーセントを超える堆積が

進行し、その機能が損なわれている」

国は、帳尻を合わせるために、さらに税金をつぎ込んだ。

品木ダムの完成から23年後の88年、今度は

浚渫船「草津」を湖面に浮かべ、パワーシャベルで湖面のヘドロを掻き出し

脱水機で水分を絞り出したうえで、

ダムからほど近い「土捨場」と呼ばれる産業廃棄処分場に廃棄し始めた。

既に2つの処分場が21万7千立方メートルの土砂で埋まり、

現在は三つ目の処分場に運び込んでいる。

しかし、33万立方メートルの容量のこの処分場も、

あと数年で満杯になる予定だ。

私が初めて草津の中和工場を訪れたのは9年前のことだ。

説明役の職員に

「この中和事業は、半永久的に続けるのか?」と質問した時のことを

今もはっきりと覚えている

「山から切り出した石灰で、賛成の河川を中和して、品木ダムにためた

土砂を浚渫して山に戻していくんです。これぞ究極のリサイクルです」

真顔で答えるのに驚いた。

「究極のリサイクル」という薄気味の悪い言葉が胸につかえて、

ずっと引っかかっていた。

人間の手による自然改造が思わぬ傷跡を生態系に残さないのか?と。

確かに、中和事業によって吾妻川の水質は改善され、魚は戻った。

しかし、八ツ場ダム建設の前提として、大量の汚泥の廃棄処分を伴う

中和事業を永久に続けることには無理がある。

そんな疑問を抱えていたときに、

品木ダムに大量のヒ素が蓄積していることが判明したのだ。

ヒ素の蓄積は、ダム官僚にとっても予想外のことだっただろう。

安全を誘導する巧妙な情報操作

中和事業がはじまった翌65年から40年以上、草津白根火山地帯の

地球科学的調査を続けている上智大学の木川田喜一准教授が「地球化学」

(06年)に寄せた論文によると

草津の中和工場が石灰を投入している湯川のヒ素濃度が急上昇したのは

80年代半ばから90年代にかけてのこと。

木川田氏は70年代に湯川上流の硫黄鉱山を掘削した際に行動から

わき出た万代鉱源泉が急上昇の原因とみている。

源泉からのヒ素供給量は年間49トン。このうち31トンが湯川を流れ、

品木ダムに注ぎ込むのだ、という。

図らずも品木ダムは下流へのヒ素汚染の防波堤としての機能も

担うことになった。

しかし、あえて「自然改造」に踏み込んだダム官僚に安どする猶予は

与えられていない。

品木ダムから浚渫され、ダム周辺に捨ててきた

ヒ素まみれの土砂は増える一方なのである。        

しかも、その処分場からヒ素が品木ダムの

下流に再流出する危険性もあるのだ

昨年11月、C処分場を訪ねた。国交省の説明では土砂をセメントで

固めて積み上げているとのことだったが、むき出しになった断面を見ると、

5センチほどの厚さに堆積した土砂の表面を、厚さ数ミリのセメントが

薄い膜のように覆っているだけだった。      

そんな脆弱な加工でできた層がいくつも重なっていた。

しかも処分場からの排水路をたどると崖にぶつかり、

排水は崖下の急斜面から沢に落ちていた。

当然、ヒ素などの有害物質が廃棄物に

含まれている場合、

処分場は遮水シートを敷いたり、

排水処理施設を持つ「管理型」で

なければならない。                 

しかし、国交省は、「土捨場」に

遮水シートもなければ、排水処理施設も

ないことをすでに認めている。

品木ダム周辺の水質や地質調査の結果を

隠し続けてきたのは、

この許し難い無作為を隠ぺいするつもりでも

あったのか。

国交省のウソを告発した冒頭の技術者は憤る。

「ずっと前から国は、ダムにたまった汚泥を放置すればえらいことに

なると知っていました。

そこで、堆積土を再利用してセメントでも作れないかと検討したことが

あるのです。

その一環で私は堆積土からヒ素を除去する実験を依頼されたのです。            

しかし、当時の品木ダム水質管理所の所長は、おれの在任中は

おとなしくしたい、と、私どもの報告書と実用化に向けた提案を

一顧だにしませんでした。」

こうした事実をひた隠しにしながら、国交省は八ツ場ダム建設の必要性を

説いてきたのである。

改めて今回入手した国交相の一連の資料を眺めてみた。

水質データを見ると湯川で環境基準の100倍超、

品木ダムの下流でも貝瀬地点で基準の5倍のヒ素が計測されている。

品木ダムの処分場の地下水や排水を調査した資料は

B処分場の地下水が環境基準を頻繁に超え、

05年には0.08mg/ℓを記録している。

現在の土捨場であるC処分場の地下水も、昨年0.097mg/ℓと

大幅に環境基準を超えていた。品木ダム湖底の地質はすでに記したとおりだ。

しかし、政権交代選挙の3日前に当たる昨年8月27日、東京都千代田区の「財団法人ダム水源地環境整備センター」で開かれた

「吾妻川水質改善対策検討委員会」の会議資料は、

完成後の八ツ場ダムにもヒ素が堆積していくことを予想したものの、

ダム下流へのヒ素の溶出値は環境基準を超えず問題ないという結論が

用意されていた。

また、昨年2月、大宮ソニックシティで開催された同委員会で

配布された資料には品木ダムの底泥中のヒ素濃度のデータがあるが、

89年の計測値だった。

20年前の650~2000mg/kgという

数値を有識者に見せる一方で、

すでに把握している深刻な汚染値は伏せたまま、とは 

信じ難い隠ぺい工作である。

ヒ素に詳しい真柄泰基(まがらやすもと)北海道大学環境

ナノ・バイオ工学研究センター客員教授(環境リスク工学)は、

国交省の姿勢に疑問を投げかける。

「これだけのヒ素を含む堆積土の土捨て場が地震などで

 崩落して下流に流れ込んだら大被害です。

 排水も含めて土捨て場から外部にヒ素が流出しないように、

 国交省は十分な対策を取る必要があると思います。

 いったん被害が生じれば、その責任は

 最後まで国が責任を負わなければいけません」

そして、ヒ素の毒性について警鐘を鳴らした。

「1ミリグラムのヒ素を含んだ水を生まれた時から飲み続けると、

 7,8歳で慢性の中毒症状が現れます。発症すると、

 皮膚が鳥の足のような固い奇形になり、痛みで手を握ることもあることも

 できない。

 

 そして、いずれ皮膚がんなどを誘発します。

 ユニセフの推計では、自然由来のヒ素による健康被害は

 世界で2億人とされています」

ヒ素は自然界に広く存在し、火山や鉱山の岩盤に高濃度で含まれている。

温泉水にヒ素が含まれているのはむしろ自然であり、湯船で皮膚から体に

侵入することもないので心配はない。

ただ、それが飲料水に紛れ込むと人体に重大な危険を及ぼすのである

品木ダムは当初の目的を超えて

大量のヒ素貯蔵庫となった。

しかも、すでに堆積土はダムの容量を超え、しゅんせつした汚泥を

周囲の山間に捨てざるを得ない状態が続いている。

まずこの処分場の安全対策が急務である。

さらに、品木ダムに堆積しているヒ素が、

八ツ場ダムでもたまっていくだろうと

予測する議論が密室で進められていた。

水没地の住民にも、

水を利用する都府県にも知らされないままに、だ。

高濃度のヒ素で汚染された品木ダムを

上流に抱える八ツ場ダムがヒ素蓄積ダムになる 恐れはないのか?

まして、浅間山などの活火山にほど近いという大型ダムである。

噴火対策はどうなのか。

また、噴火の堆積物は地滑りを起こしやすく、ダムからヒ素入り土砂が

あふれだす心配もある。

1月24日、前原国交相が八ツ場ダム建設予定地を再訪する予定だが

工事再開を要望する大合唱に囲まれるはずだ。

しかしこの地元の声を操っているのが、

国交省であることは見逃せない。

八ツ場ダムを宣伝するパンフレットに

ヒ素の記述は一切ない。

これだけ重要な事実をひた隠しにして、

ダムの必要性のみを宣伝してきた罪は重い。

治水・利水の議論を離れて、46年間の中和事業が生んだヒ素の大量堆積と

いう難題に、国交省は責任を持って取り組むべきであり、

国交省歴代幹部は、情報開示を怠ってきた経過を真摯に語るべきだ。

処分場は間もなく埋まる。残された時間は少ない。

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引用終了

これでも八ツ場ダムの建設に賛成する人は、ヒ素入りの水を飲む危険性を

十分認識してからにしてほしい

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